今度の第2版国際法務シリーズで第2番目に取り上げる「法律分野」は、旧版 (第40回
国際法務その6:外国為替法)と同じく、外国為替法Foreign Exchange Law:Fです。
旧版
(第40回)が書かれたのは、2009年(平成21年)12月ですから、その当時の「外国為替法」の中心課題は、「外国貿易」でした。したがって、その当時の「外国為替法」の分野の中核となる法律は「外国為替及び外国貿易法(1)」でした。
ところが、その後の国際情勢の変化とともに、「外国為替法」の分野の中心課題は、「課税」と「マネーローンダリング(資金洗浄)」に移りつつあります。すでに、旧版(第40回)でも指摘しましたように、「課税」については、1997年(平成9年)に「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(2)」が成立し、翌年4月1日から施行されていましたが、「マネーローンダリング(資金洗浄)」については、2007年(平成19年)に成立した「犯罪による収益の移転防止に関する法律(いわゆる犯罪収益移転防止法)(3)」があり、同法は、ほとんど毎年といって良いほど一層の厳格化のための改正が行われています。
従来から「外国為替法」などとは無縁であった米国でも、「課税」については、2010年(平成22年)に成立したForeign
Account Tax Compliance Act (いわゆるFATCA)が
2013年(平成25年)から施行されましたし、「マネーローンダリング(資金洗浄)」については、1998年(平成10年)に成立したMoney
Laundering and Financial Crimes Act などの法律があります。
ここでは、日本の犯罪収益移転防止法と米国のFATCAを簡単に見ることにしましょう。
まず、日本の犯罪収益移転防止法は、つぎのような仕組みになっています(4)。
@特定事業者の意味 犯罪収益移転防止法の適用対象となる事業者を意味します。
A特定事業者の範囲 特定事業者の範囲は広く、「金融機関」、「ファイナンスリース事業者」、「クレジットカード事業者」、「宅地建物取引業者」、「宝石・貴金属等取扱事業者」、「いわゆる私設私書箱サービス業者」、「いわゆる私設電話秘書サービス業者」、「電話転送サービス事業者」、「いわゆる士業者(司法書士・行政書士・公認会計士・税理士・弁護士)」などです。
B特定事業者の義務 特定事業者の義務として5つのものがあります。(1)取引時確認、(2)確認記録の作成・保存(7年間保存)、(3)取引記録等の作成・保存(7年間保存)、(4)疑わしい取引の届出(いわゆる士業者を除く)、(5)取引時確認等を的確に行うための措置。
C特定業務の意味 特定事業者が顧客と取引を行う際に取引時確認が必要になるのは、全ての取引についてではなく、特定業務のうち一定の取引のみです。
D特定取引等 上記Cにいう「特定業務のうち一定の取引」のことを特定取引等といいます。
つぎに、米国のFATCAは、つぎのような仕組みになっています(5)。
@原則として、源泉徴収を適用 たとえば日本の銀行がUS Assets
(米国債券・株式など)の利息・配当・譲渡対価を受領する場合には、原則として、30%の源泉徴収を適用する。
A例外として、条件付で、源泉徴収を不適用 その日本の銀行が米国内国歳入庁とFFI契約を締結すれば、30%の源泉徴収は適用しない。
BFFI契約とは、Foreign Financial
Institution契約のことで、このFFI契約を締結した日本の銀行は、電子データや紙面データ上にその日本の銀行の口座保有者が米国人であることを示す兆候がないか否かの確認をして、その確認の結果を米国内国歳入庁に報告しなければならない。