前回(第105回)で述べましたように、国税通則法が2011年(平成23年)に改正され、税務調査手続は、これまでの「課税庁の裁量」から解放され「法律による規制」に服することになりました。
この税務調査手続に関連して注目すべき新しい制度が、2015年10月5日から実施されるマイ・ナンバー法に基づくマイ・ナンバー制度です。このマイ・ナンバー法の正式名称は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」という長い名前の法律です(1)。番号には、12ケタ(前11ケタ+後1ケタの数字(2))の個人番号と13ケタ(前1ケタ+後12ケタの数字(3))の法人番号の2種類があり、個人番号は、市町村長が指定しますが(4)、法人番号は、国税庁長官が指定します(5)。
個人番号および法人番号の実際の利用は、「社会保険」、「税制」、「災害対策」の3分野で2016年1月から開始されることになっていますが、これら3分野に加えて「預貯金口座」にもマイ・ナンバーが利用されるための法改正が現在国会で審議されています。
マイ・ナンバー制度が将来どのような形で運用されて行くのかは、現在のところ、予想は難しいのですが、たとえば、「週刊エコノミスト」2015年5月26日号は、「徴税強化!」というタイトルで、つぎのような「税務調査上の運用」を予想しています。 − これまでの相続税の税務調査では、相続人の確定申告書などのほか、相続人の自宅近くの銀行に照会することで口座の存在を把握。それでも=分からない場合は相続人の自宅を調査して、家計簿などからその手がかりを見つけてきた。元国税調査官の武田秀和税理士は「マイナンバーによって調査の手間が省け、遠隔地預金はかなりみつけやすくなるのではないか」と話す(20頁)。− 預貯金口座へのマイナンバーひも付けなど、関連法改正を審議する今年〔2015年〕5月13日の衆院内閣委員会。プライバシー権侵害の懸念からマイナンバーの利用拡大に反対する日本弁護士連合会の坂本団・情報問題対策委員会委員長は「いくら口座にマイナンバーをひも付けても、脱税する人はその前提で手口を考えるため、悪質な脱税はなくならない。また、(資産の捕捉を嫌って)富裕層の海外資産移転がさらに進むだろう。結局、まじめに納税している人への徴税強化にほかならない」と意見陳述した。徴税の強化は、真綿で首を絞めるように進みこそすれ、弱まることは決してない(22頁)。
脚注
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注1 |
平成25年5月31日法律第27号。(附則第1条本文には「この法律は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。」とあり、平成27年4月3日政令第171号により「施行期日は平成27年10月5日」となりました。)
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注2 |
マイ・ナンバー法施行令、つまり、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律施行令」第8条によれば、検査用数字以外の11ケタの数字+検査用の数字1ケタの合計12ケタの数字になります。
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注3 |
同じくマイ・ナンバー法施行令第35条によれば、検査用数字の1ケタの数字+検査用数字以外の数字12ケタの合計13ケタの数字になります。
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注4 |
マイ・ナンバー法第7条第1項。
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注5 |
マイ・ナンバー法第58条第1項。
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