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第58回  『 右脳インタビュー 』  (2010/9/1)

佐伯 弘文さん

シンフォニア テクノロジー株式会社 相談役

  
プロフィール

1939年兵庫県生まれ。1962年、東京外国語大学英米科卒業。同年、日本ガイシ入社。1964年、神戸製鋼所入社。専務取締役 兼 機械カンパニー執行社長を経て、2000年、神鋼電機(現 シンフォニ アテクノロジー) 代表取締役社長に就任。会長を経て2009年より現職。

主な著書
「会社はムダの塊だっ!」 幻冬舎メディアコンサルティング 2006年
「親会社の天下り人事が子会社をダメにする」
佐伯弘文、柴田昌治共著 日本経済新聞出版社 2008年
「だから、二世・三世経営者はダメなのだ!」 ワック 2009年
「移民不要論」産経新聞出版 2010年
 
寄稿
少子化による教育費や住宅費の減少 
支出減をどうみているのか経済学者に問いたい (2010/10/21)

 

片岡:

今月の右脳インタビューは佐伯弘文さんです。佐伯さんは神戸製鋼所(注1)の専務取締役を務めた後、神鋼電機(現 シンフォニ アテクノロジー(注2))の代表取締役に就任、倒産の危機にあった同社を劇的に復活させました。そして、その経験を踏まえ、民から民への天下りの弊害について警鐘を鳴らしておいでです。まずは御社と神戸製鋼所の関係をお教え下さい。
 

佐伯

弊社は創業1917年、元々は造船会社の電気機器製造部門だったのですが、鈴木商店(注3)の傘下に、そして神戸製鋼所製鋼の電気部門となり、1949年に分離独立しました。このため以前は神戸製鋼所が株式の1/3以上を持っていたのですが、今では20%以下となっています。こちらから依頼したわけではなく、神戸製鋼所側、或いは「子会社の資金効率運用がなっていない。グループ企業の資本を全て3割カットするように」といった銀行の指導で行われました。現在では神戸製鋼所グループから外れ、昨年、シンフォニ アテクノロジーへと改称しました。ところで私が神鋼電機の社長になった当時、神戸製鋼所グループには140社余りの子会社がありましたが、そのすべてが赤字でした。どんなに不況でも、他の大手企業グループにはここまでの現象はありません。どこか間違っているはずで、自分が天下って、根源は不適切な天下り人事にあると感じました。要するに適材適所の人事になっていません。このことを親会社にも何度も申しました。
 

片岡:

具体的にはどういった人事が行われているのでしょうか。
 

佐伯

能力の高い人材を子会社に送り込み再建にあたらせる「有能者による再建人事」等もありますが、多くの場合は、例えば論功行賞的な「ご苦労さん人事」や「玉突き人事」。これは得てして格で決め、専務だから一部上場、平取だから非上場と天下っていきます。或いは一般的には日本では親会社の主流派、反主流派による派閥抗争の末の報復的な「権力闘争人事」や業績悪化の責任等を取らせる「ペナルティー人事」もあります。また天下りは銀行からもあり、この場合、会社の発展よりは債権保全が最大の命題となりやすい傾向もあります。企業は社長によって大きく左右されるにもかかわらず、多くの大企業では、こうして適格性は二の次、三の次となってしまっています。神戸製鋼所には大きくいって素材系と機械系の部門があり、それぞれ全く文化が違います。ですから適格性を考えれば、当社に素材系部門出身の社長が配置されることはなかったはず。60歳まで全く違う文化で過ごしてきた人間がリーダーシップをとって能力を発揮するのは極めて難しいことで、結局、「もっと頑張れ」「コミュニケーションを良くしろ」…といった愚にもつかぬ抽象論ばかりで、具体的トップダウンの指示など無きに等しい状況になってしまいます。そのうち子会社の社内でも正論を言う骨のある人間を飛ばしたり…、やがて社内に何か言おうという人はいなくなってしまい、トップダウンもボトムアップも機能しなくなっていきます。こんなことで企業が良くなる訳がないのです。だからこそ私は就任後、無駄撲滅運動や提案制度などをつくり、積極的に社員の意見を採用し、そうすることで、従業員がどんどんものを言えるようにしてきました。また、人事の公平性を徹底させました。
 

片岡:

親子間の取引関係については如何でしょうか。親会社が取引や金融で子会社を支えているケースもあるものと思います。
 

佐伯

勿論、そうした事がメリットとなることはあります。しかし当社の場合、実際に着任してみると、取引が僅か1〜2億円しかありませんでした。こういう子会社は珍しく、何のためにグループにいるのか…。寧ろマイナス面が強く、例えば、子会社だから社長になる可能性が全くないとすると、気骨ある良い学生はなかなか来てくれません。また定年はX歳で、役員はY歳、専務になればZ歳…といった親会社同様の内規が子会社にも一律に当て嵌められていました。しかし、子会社にはそれぞれ異なる事情があって、当社の場合は10年間にもわたって新卒の採用を控えていた、つまり未来のことを考えず、その場をしのげれば良いとしてきた時代がありました。当然、今は部長クラスの人材が極端に少なくなっていて、一生懸命外部からも採用しています。それを一律に60歳定年、或いは役員定年を厳格にやるとすると、会社が動かなくなってしまいます。元々神戸製鋼所の場合は毎年、大量の新卒を採用し、しかも優秀な人材が揃っています。その分、人材がダブつき、そうした内規を作り、一律に退社させることも必要でした。当社は反対に人材不足ですから、全く事情が違います。ところで、子会社にはライン直結の子会社と複数のラインにまたがるため本社の関連企業部が管理する本社直結の子会社がありますが、ライン直結の場合は意思疎通や商品知識の共有が出来るのである程度うまく行きます。ところが本社の場合は、寄せ集めで、その分野については素人集団のため、後に出る結果としての数字だけで管理するようになってしまい、先に手を打つなど何の指示やアドバイスもなく、より問題を抱えやすくなっています。
 

片岡:

神鋼電機は長年にわたる業績不振で多額の負債を抱えていたそうですね。
 

佐伯

着任した時には、積み上がった負債が900億円もありました。装置産業でもないのに売上規模と同じ額の負債があるのは異常ですし、不適切な財務処理もなされていました。こうした事を続けていると会社はどんどん悪くなっていきます。もっとも銀行にとっては我々のような会社はベストでした。つまり多額の借金があり、ずっと赤字で無配だから金利も高く、親会社があって潰れるリスクは少ない…。借金のレートは無配の会社か有配の会社かで大きく変わります。実際、業績を回復させて復配を検討した際、例えば1円復配すれば1.5億円かかるのですが、有配となれば金利が3、4億円は安くなるということで、即、復配しました。
 

片岡: リストラについては如何でしょうか。
 

佐伯

着任前までに、既に9回ものリストラが繰り返されて、1万2千人から3千人に減らしていました。このため従業員には「もうこの会社はダメなんだ…」という絶望が染み渡り、そして特に優秀なエンジニアがどんどん退職してしまいました。割増で退職金貰えるうちに…というのは当然です。縮小均衡の連続で、企業力は落ちる一方でした。ですから私の着任後は一度もリストラを行っていません。もともと天下りできた人にとっては、縮小均衡が一番行いやすい業績回復の方策です。赤字の部分をバッサリと切ると、いくら回復するかが見えています。それに対して、新しい取組みや事業はやってみないと成功するかわかりませんし、開発費などのコストは自分の任期中に発生し、功績は後任者のものとなります。ですから金のかかる新規事業には手を付けず、赤字のところだけを切り、縮小均衡となっていきます。このように民から民への天下りは日本の企業経営の大変なウィークポイントとなっていて、そこから色々な問題が派生しています。それにもかかわらず、あまり指摘されてこなかったのはなぜかというと、天下りの問題点に気づいた人がいたとしても親会社に遠慮して黙っているし、そもそも天下ってきた人の多くがその問題点すら認識していないからだと思います。というのは、これまで先輩からそうした話を聞いたことがないからです。若し気づいているのであれば、誰か一人ぐらいは酒を酌み交わす中で、そうした胸の内を明かしてくれたはずです。結局、天下った先でも本社、或いは上の目線で子会社を見て、問題も感じないし、子会社の人の思いは初めから考慮の外で、気にも留めていなかった…。私も、実際に天下ったからこそ分かったのであって、そうでなければ気づきませんでした。子会社人事というものは、所謂、企業内部の問題であって、社会的に影響を与えるものではないため、あまり問題視されてこなかったと思われます。然し、実際は経済界全体に大きなダメージを与えているのです。然し、親会社の社長や経団連の幹部は殆んど自ら天下った経験がないため、実態が殆んど分っていないのです。そのため、この弊害を国家のために誰かが言わねばならないと考え、敢えて私があの様な本(注4)を出したのです。これは決して神戸製鋼だけのことを書いたものではなく、多くの大企業を調べた上のことです。
 

片岡:

親会社は何故、そうした子会社の状況を解明し、手を打ってこなかったのでしょうか。少なくとも数字には表れていますし、神戸製鋼所自身を取り巻く環境も厳しかったはずです。
 

佐伯

何故、赤字、無配が続くのだろう…。何故こんなに借金が多いのだろう…と本来なら当然、親会社がしっかりと追求する事が必要でしたが、そうした事はありませんでした。それで子会社を特別視しているかというと、そうではなく、私は神戸製鋼所では代表取締役専務で機械カンパニーの社長をやっていましたが、当然といえば当然ですが、コスト最優先で調達先を選ぶよう指示していました。そもそも親会社には総合的な子会社経営のポリシーや戦略がなく、神戸製鋼所製鋼で5〜6年役員をしていましたが、子会社政策について少なくとも取締役会で議論されたことはありませんでした。結局、日本で、なぜ天下りが許されているのか。色々な理由がありますが、人材供給という美名のものとに古手役員の掃きどころになっていて、また経営者たる人材に流動性がなく、ヘッドハンティング等の仕組みも弱い。更に欧米とは異なり株主、監査役会が何も言わない…。実際、株主総会で天下り社長の能力が厳しく問われたということはありませんでした。企業の業績は、社長人事により大きく左右されるにも拘らず、日本の株主は甘すぎます。上場している以上はどんどんものを言わなくてはいけません。
 

片岡:

 貴重なお話を有難うございました。
 

〜完〜

 

 

インタビュー後記

シンフォニ アテクノロジーの受付や応接室には従業員が趣味で描いた絵画が飾られています。「これもコスト削減の一環です」と言いながら、作品を眺める佐伯さんのいたずらっぽい笑顔が何より印象的でした。そんな佐伯さんの一番の趣味は読書で、好きな作家を3名上げて戴きました。
・藤沢周平
・司馬遼太郎
・藤原正彦

 

  
 

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。

 
 

脚注
 

注1

下記をご参照下さい。
http://www.kobelco.co.jp/
http://ja.wikipedia.org/wiki/神戸製鋼所

 

注2

下記をご参照下さい。
http://www.sinfo-t.jp/
http://ja.wikipedia.org/wiki/シンフォニア_テクノロジー
 

注3

下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/鈴木商店
 

注4

「親会社の天下り人事が子会社をダメにする」
佐伯弘文、柴田昌治共著 日本経済新聞出版社 2008年
 


片岡秀太郎の右脳インタビュー

 

 

 

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  © 2006 知財問屋 片岡秀太郎商店

更新日:2012/10/30