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寄稿

日本国民の民度の高さのプラスマイナス  政治力を弱める原因

2011/8/1

佐伯 弘文
シンフォニアテクノロジー株式会社相談役
元株式会社神戸製鋼所専務取締役
 

 今回の東日本大震災に示した日本人、特に東北人の冷静さや規律さ、といったマナーのよさや他人を思いやる心に対し、世界の人たちが称賛したのは、御存知の通りである。これらの行為は、永年に亘って培われた民族のDNAともなった民度の高さが、偶々こういう機会に顕れたに過ぎない。
 日本人の民度の高さを、十六世紀種子島に上陸したフランシスコ・ザビエル以来、江戸、明治にかけて日本を訪れた多くの外国人(ドイツ人医師エンゲルベルト・ケンペル、英国旅行家イザベラ・バード、米国外交官タウンゼント・ハリス、米国軍人マシュー・C・ペリー、ドイツ人探検家のハインリッヒ・シューマン、フランス外交官で元駐日大使ポール・クローデル等)は絶賛し、キリスト教徒でもない人種の中に白人以上の知性と理性を持った人種がいたことに非常に驚いたといわれている。
 しかしその民度の高さが、何故、政治面に反映されないのだろうか。寧ろ、それが政治面で裏目に反映され、現在の日本の情けない政治状況を生み出し、国家としての外交力を弱めているのではないか。
 和を尊び他人と争わず、ややこしい問題を先送りして平穏無事に物事を収める、強力なリーダーシップを嫌い仲間内だけでの話し合いによろうといった村社会の気質がそのまま国家観にも反映され、国家間の争いも誠意を持って話し合えば理解が得られる筈といったメルヘンのような甘い考えを持っている人が実に多い。要するに世界知らずの民族なのである。それが国家にとって一番大切な国防力や外交力といった一種の「喧嘩力」に対する認識の甘さ、国防を備え、必要なら不正義に対し他国と断固闘うという意志や気骨を欠落させている。言い換えれば、国内社会の延長線上に国際社会をとらえ、その違いを峻別するという意識が希薄化しているのではないかということである。腹黒といってもいいほど、徹底した性悪説にたって国益を追求する国家が集まる国際社会にあって、日本は世界からの称賛に浮かれることなく、この機会に改めてよく考えてみる必要がある。
 今回、諸外国が日本に示してくれた色々な同情には、純粋に親切心によるものも多いが、然し、表面だけで受け止めてはならない。一方では裏に計算されつくした目的もあることを複眼的に見ることが必要である。
 それまで来日した事がなかったフランスのサルコジ大統領が、多忙の中、何故駆け付けたか。例えば、この時、世界最大の仏の原子力企業であるアルバ社の社長も同行し、同社は既に東京電力から500億円以上の莫大な除染事業を受注している。或いはオーストラリアやロシアのトップが何故、日本に駆け付けたのか。両国はLNG産出国大手で、日本は世界最大のLNG輸入国、然も100万BTU当り、11ドルで購入しており、世界の笑いものになっているという。(世界の現在のマーケット価格は3〜4ドル程度で、日本は電力会社主導でプロジェクトから参加して原油価格スライド型の契約形態をとったためである)。
 又、あれ程、反日的な報道を繰り返していた中国の全メディアが何故一転して日本人の民度の高さを称賛し始めたのか。尖閣諸島の事件以来の日中間の関係悪化を是正する絶好の機会とみてのことかも知れぬが、或いは、近い将来中国でも起こるかもしれない原子力発電事故等に備えて、その際はパニックに陥らず冷静に振舞うべしとの、中国の国民への教育のためだとの見方もある。
 この様に国益が絡むのである。稀に見る御人好しの日本人は性善説を信じ、なかなか、こういう裏読みをしたがらない。外国人に参政権を与えようと安易に発言する政治家や高級官僚も一部にいるが、もっと国家保全意識を持つ必要もあるのではないか。
 更に欧米との違いは、欧米では真に優れた超エリートが政治家になっているケースが多い点である。欧米社会は日本と異なって階級社会であり、エリート階級出身者が若い頃からエリートとして教育を受け、英国のオックスフォードやケンブリッジ、或いは、フランスのグランデコールといったエリート大学に進み、真のエリートとして育っていくシステムが確立している。
 これらの超エリート校に留学した日本人の話によれば、そこで行われている教育は、「人をどう使っていくか」という中心テーマが徹底しているらしい。このためか、エリートには内心で一般国民を見下して「何も知らない国民を正しい方向に指導していくのが政治家の本来の任務だ」と傲慢ともいえる自負とプライドを持つ人も多いといわれている。彼らは表面上は別として、一般国民の意見など尊重する気などなく、真の国益となる様、世論を引っぱり自分達の思いのままの強力なリーダーシップを発揮しようとするのである。それに較べ日本では政治家も国民も知的レベルに於いて大きな差は感じられず、政治家に真のエリートは存在しない。エリートとしての自覚と卓越した見識がないため、世論におもねるだけで、世論を超越した真の国家のための強力なリーダーシップが取れない。一方、マスコミや国民の多くも、権力者に国民の日常感覚や家庭生活感覚と同じ目線を求め、真のエリートを求めなくなったために、いつ迄たっても政治の混乱が続く原因ではなかろうか。
 明治維新が何故成功し、今の日本からは想像もできないような優れた政治的足跡を残せたのか。それは、当時、武士という生れながらのエリート集団が存在していたためではないかとも考えられる。

 

 

 

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更新日:2012/09/15