知財問屋 片岡秀太郎商店  会員登録(無料)
  chizai-tank.com お問い合わせ
HOME 右脳インタビュー 法考古学と税考古学の広場 孫崎享のPower Briefing 原田靖博の内外金融雑感 特設コーナー about us  
 

大塚正民の考古学と考古学の広場

100回 信託その21:信託と税務(日米比較 その16:dominion and control およびincidents of ownership

2014/12/1

大塚 正民

大塚正民 法律会計事務所
 

前回(第99回)では連邦所得税上のgrantor trust(みなし自益信託)をとりあげました。信託設定者(grantor)が信託財産(trust property)の元本(principal)もしくは収益(income)またはその双方について当該財産およびその収益の所有者(owner)とみなし得るほどに支配権を保有している信託がgrantor trust(みなし自益信託)です。つまり、信託財産の元本も収益も形式的には信託設定者の手許を離れているのに、実質的には信託設定者が引き続きdominion and control(支配者的権能)またはincidents of ownership(所有者的権能)を手許に残している場合には、「信託の存在を無視して」信託設定者を引き続き所有者とみなすというのがgrantor trustなのです。ところがgrantor trustのこのような税法上の効果について、およそ日本では起こりそうもない事態がアメリカでは現に生じていることが指摘されています。結論から言いますと、「いくつかの税法上、dominion and controlまたはincidents of ownershipの要件がそれぞれ異なっているので、grantor trustとして信託の存在が無視される場合と無視されない場合がある」と言うのです。
たとえば、Bittker & Lokken,は、つぎのように述べています注1
― 連邦所得税法(the federal income tax law)のgrantor trust規定の目的は、財産移転の型を2種類に区別することである。すなわち、1つは、移転された財産から移転後に生ずる収益に関して、移転者(grantor)が納税義務(tax liability)から適切に解放されるに十分な程度に完了している財産移転の型であり、他の1つは、移転者が引き続き納税義務を負っていることを根拠づける程度の権能を移転者が留保している財産移転の型である。連邦贈与税法(the federal gift tax law)も移転の型を2種類に区別している。すなわち、1つは、移転者に贈与税を課するに十分な程度に完了している財産移転の型であり、他の1つは、移転者が引き続きその財産を所有していると見なすべき程度に多くの制約が付された財産移転の型である。連邦遺産税法(the federal estate tax law)は、移転の型ではなく、財産を2種類に区別している。すなわち、1つは、故人が死亡に至るまで、現実にまたは有効に、支配していた財産であって、その故人の連邦遺産税を算定するにあたってその故人の総遺産に含まれるべき財産であり、他の1つは、その故人の生前中に移転された財産であって、その故人の連邦遺産税を算定するにあたってその故人の総遺産に含まれるべきでない財産である。これらの3つの税法は、それぞれの目的に従って、完全な財産移転と不完全な財産移転とを区別しているのであるが、その区別の境界基準が法律技術的に異なっている。その結果、連邦所得税法上は、移転された財産から移転後に生ずる収益に関して、移転者が納税義務から適切に解放されるに十分な程度に完了している財産移転の型であるとされるのに、連邦遺産税法上は、故人が死亡に至るまで、現実にまたは有効に、支配していた財産であって、その故人の連邦遺産税を算定するにあたってその故人の総遺産に含まれるべき財産であるとみなされる場合がある。逆に、連邦所得税法上は、移転者が引き続き課税う税義務を負っていることを根拠づける程度の権能を移転者が留保している財産移転の型であるとされるのに、連邦贈与税法上は、移転者に贈与税を課するに十分な程度に完了している財産移転の型であるとみなされる場合もある。したがって、タックス・プランニングの観点からすれば、これら3種類の租税が財産移転の完全性(the completeness of the transfer)の判定に当たってそれぞれ独自の基準を適用している現況を認識して、信託を組成すべきである。―
ここにいう「タックス・プランニングの観点からすれば、これら3種類の租税が財産移転の完全性(the completeness of the transfer)の判定に当たってそれぞれ独自の基準を適用している現況を認識して、信託を組成すべきである。」との警告に従った典型例が第89回および第96回の論稿で検討したアメリカの「撤回不能生命保険信託(Irrevocable Life Insurance Trust: ILITと略称されます。)」です。まさに「ワザと欠陥を作出させた見なし自益信託(Intentionally Defective Grantor Trust: IDGTと略称されます。)」という法律的技術の産物なのです注2。つまり、連邦遺産税法§2042に規定しているincidents of ownershipを回避することによって連邦遺産税上は財産移転の完全性を達成するのですが、連邦所得税法上は§671に規定しているdominion and controlをワザと回避しないことによって財産移転の完全性を達成しないように工作する訳です。

 

脚注
 
注1

Federal Taxation of Income, Estates and Gifts, Third Edition, Volume 4 (2003), ¶80.1.7 Estate and Gift Tax Consequences of Grantor Trusts(連邦所得税上のGrantor Trustsの連邦遺産税上および連邦贈与税上の法律的効果)

注2

第89回で述べましたように、「死亡保険金は・・・死者の遺言執行者以外の者が受け取った場合には、その死者がincidents of ownership・・・を有していた場合に限って、死者の遺産に含まれる」とされていますから、incidents of ownershipを回避することによって連邦遺産税上は財産移転の完全性を達成するのです。また、第96回で述べましたように、「このIDGTは、連邦所得税法上は・・・grantor trustになりますが、連邦遺産税上はnon-grantor trustになります。」

   
   


大塚正民弁護士へのご質問は、こちらからお願い致します。  <質問する

  質問コーナー(FAQ)
  

ご質問は、編集部の判断によって、プライバシー等十分配慮した上で、一部修正・加筆後、サイトへ掲載させて戴く場合がございますので、予めご了承ください。

本メールの交換はすべて編集部を介して行われます。

すべてのメールには、お返事できない場合もございます。ご了承下さい。

 

 

 

chizai-tank.com

  © 2006 知財問屋 片岡秀太郎商店

更新日:2014/11/30